ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

雨粒をかき分けて

2024/6/9

場所は北九州、ソウイチロウくんの宅にて、早朝に目を覚ます。外を見れば薄暗く、それなりの雨が降っていました。暗澹たる気持ちのまま、適当に買った朝食のパンふたつを胃に捩じ込み、ソウイチロウ君の浴びるシャワーの音を聞いていました。遠征の日の朝は早く、生乾きの義務感と溜め息で満ちています。

少しして出発。いつも通り、ソウイチロウ君が運転で私は助手席。今回の旅のサポートベース松岡君と、サポートドラムコージ君を拾い、高速を介して山陽道へ。ノンフィクションは一路、関西へと向かいます。本日は神戸DxQにてライブなのです。

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ライブの日に雨というのは基本的に最悪で、お客さんの足も重くしますし、機材の搬出や搬入もしづらくなりますし。イベント合間のちょっとした外出も億劫になります。遠征となればさらに悪く、運転も少し危険になりますし、車内に持ち込まれた濡れは目的地まで同伴してきます。基本的に良い事はないです。

しかしそれでも、ライブが決まっているなら行かねばなりません。舞台を用意してくれるライブハウス、待ってくれているお客さんのために、何があろうが行かねばなりません。山間を走る車は雨粒を弾きながら、決死の覚悟でアスファルトを削ります。

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鬱憤を晴らすかのように、車内でするのはいつも通り馬鹿な話。コージ君が見た夢の「色黒オールバックのイイジ」という話を筆頭に、よくもまぁこんな下らない事を話せるもんだと感心しながら走っていました。しかしそんな話でもなければ、小倉から神戸までの約7時間の行程、耐えられるものではありません。別に他にやる事はないですし、隙間を埋めるかのように、皆で笑い合っていました。

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笑い合いつつ、飯を喰いつつ、無限に運転するソウイチロウ君の鉄人っぷりに驚愕しつつ、そうして昼も過ぎた頃、神戸DxQに到着しました。機材をぶち込み、雪崩れ込むようにリハーサルを済ませます。

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大抵の県外ライブがそうであるように、もう辿り着いた段階でそれなりに疲れています。しかし案外、そういう日の方が良いライブができるもんです。本番まで身体をいたわりつつ、情報量の多い神戸の街並みを見て回ったりしていました。空が狭い街並みは東京のようです。福岡、北九州には中々ない光景で、いまだにあまり慣れません。

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時間が少し経って、イベントは開場から開演へ。共演の皆さんのライブを見ながら、心拍数を速めていました。やはりというか、関西のバンドの皆さんは皆上手く、そしてきちんとしています。都会がそうなのか、今日のイベントがそうなのかはわかりませんが、全体通して隙が見えづらいのです。別に地方を下げる訳ではありませんが、否が応にも完成度を感じます。

見たバンドを全部書きたいのはやまやまですが、文量が三倍くらいになってしまうので、ブログでは割愛致します。皆、とても良い演奏でした。戦々恐々とする気持ちと、ふつふつと燃える気持ちを混ぜながら、楽屋で筋肉の筋を伸ばしていました。

 

そして、我々の番です。今回は有難いことに、トリを頂いています。責任は重大です。しかしその程度の責任を果たせぬようでは、7時間かけて来た意味がありません。ただ私にできる事を、全力でやるのみなのです。

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対策にしくじったか、中で聞こえづらい自分の声を塗り潰すべく、全力で叫びました。不安な気持ちを掻き消すべく、全力でギターを掻き毟りました。とてもよく頑張りました。こちらから自分たちの出来栄えはよくわかりませんが、責任は果たせたのではないかと思います。

ライブがやりたいだけなら、地元から出る必要はないのです。会いたい人がいるだけなら、ライブをしに行く必要はないのです。ただ、ライブを見せたい人たちがいるのです。我々の姿を、現在を、見て欲しい人たちがいるのです。

届いたかどうかはわかりませんが、全力でやりきりました。ありがとうございました。

 

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バーカウンターでの打ち上げ。色んな人と話していました。今日のライブの話は程々に、ハヌマーンの話であったり、何故かメタルギアの話で盛り上がったりしていました。また現金ドリンクが100杯に行くたび、ワンナイトカーニバルが流れて少しの間ドリンクが無料になる、とかいう楽しすぎるシステムがあり、皆で踊ったりもしていました。アレは何だったんだろう。未だによくわかっていません。

そこそこで切り上げ、機材を積み込み、ノンフィクションは明日のライブに向けて広島へと経ちました。疲れのせいか、夜のせいか、どうしても増える下ネタの割合にゲスな笑いを挙げつつ洒落た神戸の街にサヨナラを決めていました。

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爆笑しつつ、ラーメンを喰らいつつ、やがて広島のはずれ、広めの漫画喫茶に到着。サポート2人をぶち込み、我々ノンフィクションはいつも通り車中泊を決め込みました。遠征と公演で、みな疲労は困憊しています。それでも明日もライブがあります。ピリオドの向こう側まで行くために、ただぶっきらぼうに、広げたシートで身体を曲げて、その目を閉じるのでありました。もう雨は止んでいました。