ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

通夜のよるべ

 

 

 

 

2021/2/13

 

通夜のよるべ

 

2021年、2月12日、福岡アーリービリーバーズが閉店するという連絡を、番頭たるタケルさんから受けた。しかも翌日、2月13日のライブで終了するという。

その報告は、まさに急逝。すさまじいほどの速度で、私の脳髄を抉っていった。突然だった。衝撃だった。悲しさよりも驚きがあった。だって、つい先日まで3月に企画をやろうという話をしていて、連絡を取り合っていたのだ。休業ならともかく、閉店なんて。なくなるなんて。

委託や移転ではなく、なくなる。完全なる消失。明日のライブが終わり次第、そこはもう、ライブハウスではなくなるのだ。

本当に、仕方なく、どうしようもない、そんな事。

 

翌日、13日、ライブが終わった後にアーリーに行った。そこには沢山の人が居て、笑い合っていた。それを見て、やはりなくなるんだなと思いながら、なくなることが嘘のようでもあった。私も割り切れない思いで、色んな人と話した。楽屋に行くとタケルさんが居て、バンドマンも居て、思い出を語ったり、これからを語ったり、何故かボードゲームをやって笑いあったりした。そうしている最中も、楽屋に貼ってあるステージパスや、いつかの夜のセットリストが、参列者のように顔を並べていて、やり切れない思いになった。

夜が更けても、誰も帰ろうとはしなかった。コロナ禍ではあるが、今日だけは許して欲しかった。

だって帰ったら、この店を出たら、終わってしまうんだ。終わってしまったら、スタッフでもない私は、ステージでに立つことはもちろん、楽屋に入ることすらできないんだ。もう二度と。

本当に、終わって、しまうんだ。

じっくりと、しかし、しっかりと、それでも時間は動いてゆく。弾けるような談笑と、何かを含むような沈黙が交互に訪れる。それは本当に通夜のようだった。

そしてついに、明けて欲しくない夜が明けた。

みな、のろのろと帰り支度をしていた。名残り惜しそうに、ゆっくりと。その名残すら、もうすべて、なくなってしまうのだから。

最後に死に顔を見ておきたく、フロアの電気をつけてもらった。いつもと変わらぬステージがそこにあった。何度となく叫んで、何度となく転がって、何度となく笑ってきた場所だ。数え切れないほどの人数が、その場所で同じことをしてきたんだ。思わずカメラを構えたが、アイフォンのレンズには収まりきれないほどの情報量が、ステージに、フロアに、溢れていた。

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ああ。

ああ。
なくなってんじゃねぇよ、くそ。

さよならくらい、言わせてくれよ。ステージ上でさ、大声でさ。それに似合う音を、私はいくつも知っているんだ。

 

そしてついに、解散となった。

店を出て、写真を撮り、ひとりまたひとりと、別れを告げ、歩き出す。しばらく眺めていたが、私もついに、挨拶をして、歩き出す。

 

時刻はもう朝である。始発はとっくに出ているが、何となく歩きたくなったので、歩く。空はもう白み始めていて、無神経に時間の流れを告げていた。今日ほど、今ほど朝日を恨んだ日はない。疲れと眠気で蔓延した頭を抱えて、それでも思いを整理しながら、脚を動かす。

2月ももう半ば、空気はそれほど寒くはない。暖かくなれば、また花は咲き、草の匂いは蒸れ虫が鳴き始める。今私の歩いてる横のお堀は、夏になれば綺麗な蓮の花が一面に咲き乱れる。

しかしその時、アーリーはもうないのだ。

 

しばらく歩いて、ふと理解した。この思いは割り切れないんじゃなくて、割り切りたくないんだ。この歳になれば、割り切ってきた経験も、割り切るためのメゾットも、私は沢山持っている。それでも私は、今、この思いを、割り切りたくないんだ。

「仕方のないこと」「これも前に進むための」「人が死んだ訳じゃない」「いい経験になる」とか、並ぶ御託はどうでもいいんだよ。今、今なんだよ。今、胸中のこの思いを、断ち割ることは、私にはできない。

私には、できない。

 

せめて、アーリービリーバーズ、関係者の皆様と、信じてきた皆様に、感謝と敬意を。そして固まりのままのこの胸中を、今から抱いて私は眠ります。

ありがとう、ございました。

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