ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

どこにもない場所

 

 

 

 

2021/3/16

 

どこにもない場所

 

約1年前にバイトをクビになったお店、今日通りかかったら、潰れていました。

何となく、本当に意味もなく店の前に立ち寄ったら、「3月15日をもって閉店」との張り紙。まぁもうクビになってますし、ショックを受けた訳でもないのですが、とても、やるせない気持ちになりました。

昨年春、コロナ禍で一時閉店の流れでクビになったので、それは仕方ないです。私だけじゃなく、スタッフは全員クビになりました。恨み辛みも別にないです。というかいずれ辞めようと思ってましたし、不満を挙げればキリがなかったですし。

それでも、5年ほど働いていました。思い入れがない訳がありません。何人もの同僚と、店の文句を言いながら笑い合ってきました。ドアの立て付けが悪い事をいつも不満に思っていました。異常に狭い更衣室で着替えながら、給料上がんねーかなと思っていました。店裏に佇む猫、たまに撫でていました。

そんなに多く入っていた訳ではないです。ツアーの際には沢山休みました。しかしそれでも、5年です。私の5年間の、その日常の15%ほどは、その店と溶け合って共にありました。

その店は、もう、ないのです。

 

その店はテナントビルの5階、1階で閉店の張り紙を見て、私は誰かいないかとエレベーターに乗り込む。エレベーターの扉がゆっくりと開くと、目の前に巨大な鉄のシャッターが、私を断絶するように広がっていました。それは圧倒的な、拒絶。かつて私の一部だった店は、もうこの世にはない。

何も言えず、エレベーターの閉まるボタンを押す。1階で開いたエレベーターから見える景色は、かつて私が働いていた頃と何も変わらない景色でした。そしてこの景色も、もう2度と見る事はないでしょう。

散って行った同僚の事を思いながら、店裏の猫の事を思いながら、また夜の街へと歩いて行きました。