ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

6月12日 とある、ゼロの話

朝は、6:20、アラームで、飛び起きる。アラームを止めて、数回、嗚咽を吐く。

昨夜は思い立って、「ノンフィクションの映像」を全て仕上げてしまった。動画を書き出して、サイトにアップロード、情報まで打ち込んで、眠りについた。製作の遅れから、公開は14日くらいになると思っていたが、これは嬉しい誤算である。少し無理した甲斐はあった。


眠いが、まぁ精神は悪くない。水を飲んで、実家からくすねたバナナをかじる。脳味噌をグルグル回しながら、目を覚ます。

本日は大阪でライブである。単発なので、朝出発して、翌朝に帰ってくる予定である。前後日のライブ予定を組めれば良かったが、ノンフィクション、サポート形態も相まって、連日のスケジュールを作るのは少し難しいのである。

着替えて、ライブ用の荷物を持って、いつもより早い時間に、家を出る。空は快晴、まだ朝は少し冷えるか、パーカーで身を守り、歩いて駅へ向かう。


駅から街、街からバス、バスから小倉、小倉からソウイチロウ君宅へ向かう。道中、コンビニでおにぎり2個と水を買い、胃を動かす。


ソウイチロウ君と合流、荷物を詰め込み、車を出す。みょーちんを迎え、九州自動車道に乗り込み、ノンフィクション号は大阪を目指す。本日は、共演のミズニウキクサめぐちゃんにベースを弾いてもらうので、行きも帰りも、車は3人である。スペースは広いが、少しさみしい。


まぁしかし、喋ることが、そろそろ、ない。

ノンフィクション車内、普段は結構、喋る方である。基本的に阿呆な話か漫画やらゲームやらの話をしながら、和気藹々と行くのであるが、2ヶ月のツアーの果て、ほとんどの話題は話し尽くしてしまった。ツアー中はあまり時間もないので、見たり読んだりする時間もないので、増えることも少ない。

結果、車内は、静まる。広島くらいまでは、話していたが。それも、いよいよとなる。無理に話題を出そうとする私に、ソウイチロウ君は「寝てていいよ」と言う。お言葉に、甘えることにする。

起きたら、大阪の手前であった。そのまま、都市高速に入り、街の上空を駆け、目的の街へ降りる。大阪の、入り組んだ交通事情に翻弄されながら、無事に南堀江knaveへと辿り着く。約7時間、ソウイチロウ君よ、お疲れ様だぜ。


入った瞬間から、本日共演のSEGAREのドラム、ゆうた君に悪態をつかれる。慣れているので、軽口で返す。

ゆうた君、実は彼は、ノンフィクションの初代サポートドラマーである。大学の同期で、同じサークルで、コピーバンドをした事もある。当時のバイト先も同じだったりと、浅からぬ因縁である。口は悪いが、なんだかんだ仲良しである。と、私は思っている。


荷物を降ろし、挨拶をすまし、リハーサルも済ます。顔合わせも終わると、ゆうた君とソウイチロウ君、ミズニウキクサのコウヘイ君と、飯を食いに行く。

牛丼やチェーン店にて丼をつつきながら、色々と、話す。お互い、この歳でまだ音楽をやれている。それだけで、私は嬉しいよ。箸は進む。


飯終わり、三人は楽器屋に行くという。私は準備もあるので、戻る。街は夕方、まだ馴染みのない街並みに、なんとなく感傷を感じながら、knaveへと戻る。

対バンを見ながら、準備を整える。私は緊張をしている。数日前から、ずっと懸念していた事柄が、今になってじわじわと、精神を蝕んでくる。

そう、本日我々、お客さんを、呼べていないのである。ゼロ、である。

バンドとしてあってはならない、やってはならない事なのは、わかる。しかし、いないものはしょうがない。私かて、全く努力をしていないわけではない。

今すべきことは、全力でライブを行う事である。呼べてないのが気がかりで、良くないライブをしてしまっては、本当に、何しに来たのかわからない。呼んでくれた野津さんとの信頼の問題だけでなく、今日ライブをやるのに往復運転14時間、交通費だけで3万5000円ほどかかっているのだ。やらねば、ならない。


出番である。精神を振り切って、SEと共に、入場する。前口上を述べたら、ディストーションである。弾き、叫び、全力を、出し切るのだ。


30分、ありがたい事にアンコールも頂いて、ライブを終える。手応えはあった、全力は、出せたと思う。しかし、物販は、出なかった。悲しくなりながら、フライヤーを配りに店の外へ行く。

店の外、階段にて、中々出てこないお客さんを待ちながら、思いが逡巡する。駄目だなぁ、我々、数字、出ないなぁ。もうずっと、それこそゆうた君が叩いている頃から、ずっと数字は出せないでいる。そういえば先日のツアーファイナルも、赤字であった。どちらも、良いライブはしたと思うのだが、数字がでないということは、そういう事だろう。また信頼を、期待を、裏切ってしまった。もうどうすればいいのか。悲しくなる。中の店から笑い声がする。お客さんは、まだ出てこない。


そこそこでフライヤー配りを切り上げ、片付けをする。各々飲み物を頼んで、ささやかな打ち上げが始まる。色々と話しながら、清算を待つ。

この辺りで、ゆうた君は帰る。最後まで悪態をついていたが、悪いのは口と倫理観だけで、性格は悪くないのを知っている。また会おうじゃないか。


そして、清算で、ある。

本日、動員がゼロだった我々に対し、野津さんは、しっかりと腰を据えて、話してくれた。

もちろん、このままでは駄目だという前置き付きで、精神論から、心構え、実際の手段に至るまで、改善案を提示してくれた。酷評の上、最悪出禁も覚悟していた私は、ありがたくて涙が出る。本当に、少し泣きそうになる。

聞くと、悪いライブではなかったらしい。届く人には、届いていて、私は、純粋に嬉しい。

たっぷり話をさせてもらって、清算を終える。いずれ必ず、応えて、見せる。そう心に誓う。


挨拶を済ませ、機材を車に積む。また、長い運転が始まる。ソウイチロウ君が疲れているので、一度寝ていてもらい、運転は私、助手席はみょーちんで、車を出す。

この時間に開いているガソリンスタンドを探し、全然なくて精神を削られながらも何とか無事に補充して、高速に乗り込む、さらば大阪、また、来月。

ツアー中の運転は大体ソウイチロウ君だったので、長い運転は久しぶりである。少し不安であったが、やってみれば、なんてことはない。みょーちんと会話を進めながら、順調に、距離を進める。清算の話もしたかったが、みな疲れている中での長い運転である。重い話は、控えるべきであろう。終始、阿呆な話で、詰める。

行程の約半分、広島に入ったくらいで、サービスエリアに止まり、ラーメンを食べて運転を代わる。

 

運転代わった私、当たり前だがやはり、疲れている。ソウイチロウ君が大丈夫そうなので、私はまた、眠らせて、もらう。

とても、疲れた。