ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

12月29日 グラウンド・ゼロ

朝は12時、ソウイチロウ君宅で起床。

昨夜は遅くまで設営をしており、眠るのも遅くなってしまったが、本日の会場入り時間は遅いので、ゆるりとできる。

ソウイチロウ君は先に起きて、ギターを弾いている。私はお湯を沸かし飲み、バナナを食らう。

ソウイチロウ君と、曲のギターについて確認をする。本番は今日である。いくら確認しても、しすぎるという事はない。

 

順番にシャワーを浴びたら、荷物を持って、部屋を出る。車に乗り込み、発進させる。

 

そう、本日は小倉FUSEにて、ライブ。

十執念記念ワンマンのライブ。

「ヒズミ解放」その日である。

 

お嬢を迎えに行く。一昨日の練習の際、元気ではなかったので不安だったが、体調は大丈夫そうだ。相変わらず不機嫌そうな顔をしているが、朝はこんなもんである。別に我々が嫌われている訳ではない。ない、はず。

体調だけは、めちゃくちゃに心配だった。こんな大事な日に、十周年のワンマンに、インフルにでもかかろうものなら、それはもう惨劇である。

みょーちんを迎えに行く。大丈夫そうだ。よし。よし。すべての不安は取り除かれた。

あとは、やるだけよ。

特別な日ではあるが、変わらず車内では馬鹿な話をしながら、年末の小倉市街を走る。

 

決戦の地、FUSEに着く。

荷物を入れると、すでにPAのケイさん、照明のコウヘイさんが準備をしている。昔からずっとノンフィクションを見て、作ってくれた2人である。とても頼もしい。宜しくお願いします。

 

リハーサルまでは時間があるので、私はすぐにパソコンを開き、映像の制作に取り掛かる。

これは本日、ワンマン前に流す映像である。昨晩の会場の設営から、本日の開場までの映像を、本日のスタートと同時に流すのである。文章で書くと訳がわからないな。

当然、先程の車内の馬鹿な会話も、会場入りした様子も撮影をしており、その映像をそのまま今、編集しているのである。

とても大変で、とても阿呆な企画だと思うが、「ノンフィクションの映像」として日々を映してきた我々が、このワンマンまでの映像をワンマン前に見せる事ができれば、それはとても楽しく、とても意味のあるものになると確信を持っている。

ちなみに、近日、私が電気屋に行ったり、色々と仕込みをしていたのは、これである。プロジェクターを買いに行っていたのである。

 

迅速に編集をする。慣れたマウスもキーボードも持ち込んで、ショートカットキーを連射しながら、作成を進める。

リハーサルが始まる前に、リハーサルまでの分が終わる。うむ、なんとか、なりそうだ。

 

リハーサルをする。ワンマンに向けての全体練習がほとんどできていないので、今、念入りに確認をする。

過去の曲や曲間の繋ぎ、特殊なアレンジ等、念に念を入れて、確認を進める。

1時間、たっぷりやって、終わる。少し歌いすぎたかもしれない。少しだけ、喉に違和感がある。これはいかん。水を飲み、蜂蜜の飴を、舐める。

そのあとは、スタートの流れを確認する。映像流して、私が裏で開催のアナウンスをして、SEが流れ、幕を開けると、私の顔面の横断幕がある、という流れである。なんと阿呆で、完璧な流れであろうか。

確認をしたら、なんとか、行けそうである。リハーサルを終了する。

 

ソウイチロウ君は物販の設営、みょーちんはコンビニへ、お嬢は裏で練習をしている。私はリハーサルの映像を、またパソコンに取り込んで編集をする。

 

会場2分前、なんとか映像の編集が終わる。あとはパソコンを臨戦状態にして、私物を回収して、急いで裏に入る。

ふぅ、ひと段落である。あとは、仕込みが上手く回ってくれるのを祈るのみ。

 

楽屋にて、もう一度セットリストの確認、流れの確認、柔軟体操、などをする。ここまでの流れがバタついてしまったので、心が少しはやっている。落ち着け。喉の違和感も消えていない。落ち着け。仕込みは回るだろうか。落ち着け。

大丈夫だ、落ち着け。落ち着け。

 

時間である。映像が流れ始める。プロジェクターもパソコンも、滞りなく回っているようだ。まずは安心である。

 

あとは、やる、だけよ。

メンバーと、顔を見合わせる。1年間、沢山お世話になった。ありがとう。今年最後、もう少しだけ、お願いします。

映像が終わったら、マイクを持って、発声する。

「ヒズミ解放、開催であります」

SEが鳴る。歓声と、笑いも起きる。旗の仕込みも成功である。さぁ、本当にやるだけだ。十年、十年を、見せつけてやるのだ。

入場、する。

 

お客さんは、歓声で迎えてくれる。やはり想像通り、会場は一杯にはなっていない。だがしかし、この段階でそんな事は、何も関係がない。

 

SEをいつもの箇所で切ったら、日付と開催だけを告げて、演奏を始める。今年1年はこの曲と共にあった、ユーベンシルバーである。

燃焼序章、ヒャッキエコーと続く、アレンジを挟んで、俳諧デッドリビングを喰らわせて、第一局面が終わる。

今日来てくれた方に、初見の方はほとんどいない。きちんと我々を求めて、きてくれている。それが、とても嬉しい。

ライブも中盤に入り、昔の曲から昨今の曲まで、入り乱れて演奏を進める。どの曲も、きちんと反応をくれる。すべてが受け入れられる。

すべてとは言わないが、人生のほとんどはバンドに、表現に注ぎ込んでいるつもりである。今演奏している1曲1曲に、私の人生のほとんどが詰まっている。

ありがたいことに、それらが、この場ではすべて肯定されている。これが、嬉しくなくて、なんなんだ。

私が、どれだけ否定されて生きてきたと思っているんだ。

今回のセットリストは、過去最長である。当然、体力なんか足りやしない。我々30だぞ。後半に差し掛かると、喉も身体も、限界が近くなってくる。

しかし、脳味噌はもう完全に、ハイのそれになっている。疲れは感じる、喉も痛い、意識は白濁してくるが、精神はまるで止まらない。それでも、弾くし、暴れるし、叫ぶ。何も考えられないようで、脳は高速で回転している。白、白、鮮やかな、かつてないほどの解像度の白を、私は見ていた。私は、見ていた。

文字通りの、最高、であった。突き詰められすぎて、陳腐な表現にしかならない。本当に、最高であった。

自然か必然か、涙が、出た。

 

アンコールも含めて、全21曲。この十年間の曲々を、この十年間の年月を、この十年間の感情をすべて演りきって、ライブは終わる。

ありがとう、ございました。

本当に、ありがとう、ございました。

 

ダブルアンコールの終わり、メンバー紹介の中で、これまでのサポート、またメンバーの人間の名前をすべて呼んだ。総勢25名、彼彼女らのおかげで、我々は今ここに立つことができている。本当に、ありがとう。

それだけではない、我々を、見てくれた人、用事で来れずとも、エールを送ってくれた人、またライブハウスのスタッフの皆様、イベンターの皆様、すべての人のおかげで、我々は今ここにいて、演奏をする事ができている。

 

本当に、本当に。

ありがとう、ございました。

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ライブ終わり、物販をみょーちん、お嬢にも手伝ってもらい、私は挨拶へ回る。ひとりひとりに、お礼を言って回る。来てくれた人に、感謝が尽きない。見てくれて、本当にありがとう。

最高だった、泣いてしまった、と口々に言ってくれた。こっちの台詞です。どうもありがとう。

奢ってもらったカルピスを飲みながら、色んな人と、話す。話して、笑う。

 

 

物販も終わり、会場を片付け、清算もして、すべてを終わらせて、我々は打ち上げへ行く。

いや違う、すべてを終わらせに、打ち上げに行くのである。

 

白頭山という、いい塩梅の場末感のある居酒屋にて、打ち上げをする。FUSE店長たるタケさん。照明だったコウヘイさん。我々と、ナカシーと、Fuelnoxの西尾さんも来ている。

お嬢は、ライブ後に頭痛があるという事で、いまだ楽屋で休んでいる。送ろうか、とも提案したが、寝ておきたいとの事。落ち着いたら送ることを約束している。

適当な飲み物と、適当な食べ物で、打ち上げが始まる。2時間近くライブをしていた我々、唐揚げが、全身を痺れさせる。美味い。

今日のワンマンと、十執念企画に関する所感とを、諸々話し合う。「次の動きはどうする?」と聞かれたので、「いい曲つくっていいライブします」と言った。今は何も、考えられない。

阿呆のように笑いながら、深い夜が更けていく。

 

途中で、私はお嬢を送りに行く。ある程度落ち着いていたので、車に乗せて、家まで送る。

頭痛の原因は、恐らく脱水と酸欠だという事。いやぁ、凄かったかもんなあお嬢。多分、彼女の人生史上、一番身体を唸らせた日だと思う。

楽しかったよ、と感謝を告げると「私も楽しかったです」と言ってくれた。「覚える曲が多くて面倒くさかった」とも言った。少し笑う。それでも手伝ってくれた彼女に、私は感謝が尽きない。ありがとうお嬢。

家まで送り届けたら、また店に戻り、馬鹿話が始まる。

 

4時を回った頃、さすがにそろそろ、と、お開きをする。

店を出ると、とても冷える。夜の雨で道路が濡れているせいか、街がやけに暗く感じる。なぜだか、急に年末だと言うことを思い出す。

そうか、終わったんだな。十周年の年。

疲れた、な。

 

車でコウヘイさんと西尾さんを、感謝を込めて送る。みょーちんにも、極大の感謝を込めて家まで送る。なんだかんだ、彼は今年の我々のライブを、すべて叩いてくれたのである。本当に、感謝が、尽きない。ありがとう。あと来年もお願いします。

 

ソウイチロウ君と2人、家に帰る。十執念の企画から、今日のワンマンの所感までを、話す。

 

今日のワンマン、お客さんの数は、ぶっちゃけて言えば多くはなかった。その数49人。ちょっとしたバンドならば、ワンマンどころか企画ライブで倍以上の数字を出すだろう。十周年のバンドの、ワンマンの数字ではない、と思う。

しかし、そうさ。

我々は、そんなもんなのさ。

それでもね、我々は、辞めんぞ。負けんぞ。諦めんぞ。

 

そして、それゆれ、それだから、この、来てくれた49人が愛おしくてたまらない。

頑張ろう、と、2人で、話す。

来年も、宜しく、お願いするぜ。ソウイチロウ君よ。

 

家に帰り着いたら、私は荷物を入れて、倒れる。もう何もやる事がない。あるにはあるが、ない。

少しソウイチロウ君と談笑したら、布団をかぶり、眠る。

 

 

ワンマン、でした。

ありがとう、ございました。