ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

摩天楼建設計画

ビルが建っている。

三年前くらいに建物が消え、昨年くらいに工事が始まり、今は立派なビルが建っている。そんな場所がある。

前を通過するたび、工事の過程は進んで、空白は徐々に埋まり、まるで昔からあったかのような顔をして、それは日常の風景を変貌させた。

 

できるもんなんだよなぁ。

昨年見た看板で「完成予定、来年○月」となって、そんなに先なのかと思っていたら、いつの間にか、既にその時は来ていたようだ。

来る、もんなんだよなぁ、その時。

当然ながら、私が押しても蹴っても、びくともしない。車で突っ込んだところで、倒壊には至らないだろう。とにかくこの世界に、また新しい存在が、生まれたのである。

 

それを作ったのは業者だが、業者が自主的に作った訳ではない。企画をした人間がいる。

ひいては「ビルを建てたい」そう願った人間がいる、と言う事である。見上げるような巨大なビルは、大元を辿れば「ビルを建てたい」というたった7文字の思想が変貌したものなのである。

 

この世のすべての人工物に、自然にできたものは何一つなく、すべては誰かの意思が増幅され、形をなしたものである。

 

芸術とて例外ではない。

どんな偉大な傑作、何百年と時代に張り付いているような名作も、もとを辿れば、たった一人の、ほんの少しの意思、そこから始まったものである。

 

つまりね、意思さえあれば、なんでも、作れてしまうのよ、この世のものは。

私も、貴方も、誰でもね。

 

私は、いずれ摩天楼を、作るぞ。

計画も何もないが、意思だけはある。

ならば、そういうことよ。