ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

彼女による夏

 

 

 

 

2020/8/18

 

彼女による夏

 

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夏は恩田陸。ちょうど7月8月に読んで、ご満悦の私です。

暑過ぎる夏、クーラーはあまり得意ではないので、数年前なんかは付けてなかったのですが、昨今の発狂したような熱にアテられ、涼しい部屋で寝そべって、読む。暑い部屋で夏の本を読むのも本当は趣深いのだけれど、この暑さはもはや好き嫌いとかそういう話ではない。風呂が沸騰したらそれはもう風呂じゃない、お湯だ。

窓越しに蝉の声を聞きながら、毎日ちびちびと、掬い取るような読書でした。クーラーは、快適だった。すげぇ。

 

「七月に流れる花」

「八月は冷たい城」

本は分かれてますが、上下巻みたいなもんです。面白さはまずまず、しかしやはり恩田陸の描く少年少女たちは、シニカルで、儚げで、生々しく、いつも何かに憂いている。形骸化されたキャラクター達でなく、別世界を生きる人間として見ることができる気がする。それは物語として、正しいあり方だと思う。

ただ、この物語は、短かったのもあって、やはり同じ少年少女を描く「蛇行する川のほとり」や「ネバーランド」のには届かなかったなと、思う。

まぁ、単に私が昔読んだから、そっちの方が好きというだけの話でもあるけど。昔読んだもの、昔好きになったものは、やはり特別である。

 

もしもの話だけれど、私が一切恩田陸と出会わず、初めて読んだのがこの「七月に流れる花」だったとしたら、私はどんな感想を持っただろう?

その後、昔の作品、現行の私が愛読する作品を読んだら、彼はどういう感想を持つのだろう。

 

小説に限らず、映画でも、音楽でも、ゲームでも、「好きになっていたかもしれない」モノは恐らく無限にある。親友になったかもしれない人もいるだろう。交際をしていたかもしれない女性もいるだろう。

そう考えると、不思議な気持ちになる。

 

本を読み終えたら、外から蝉の声が聞こえてきた。クーラーがなく窓でも開いていれば、彼女による夏ともう少しだけ繋がれるような気がした、少しだけ、残念。

 

最高気温30℃くらいの、あの夏にはもう、行けないのだろうか。それは、寂しい話だ。