ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

或る夏の純情

 

 

 

 

2021/7/12

 

或る夏の純情

 

気がつけば、夏ですね。夏、静かな部屋でひとり蝉が鳴くのを聴いていると、ピロウズの「白い夏と緑の自転車、赤い髪と黒いギター」のイントロが流れてくるのは私だけでしょうか?

佇んでいるとどうにも時間を持て余したので、久々に歩くことにしました。近くの神社に最近行けていないので、向かいましょうか。着替えて、水を飲む。

扉を開くと、むわりと、夏に覆われる。自転車を漕ぎ出して、夏を実感する。やかましい蝉も、直射の日光も、深まる明瞭も、入道雲もありましたが、夏はまだまだ本気ではないでしょう。恐ろしいもんです。

神社に着く。正確には、山の上の神社へと続く長い階段の前に着く。近くに自転車を止め、階段を登る。ここの道は地域猫が豊富なのですが、どいつもこいつも暑さで伸びている。とても可愛いけれど、地面も冷たくはなかろう。大変よな君たちも。

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たいそう汗をかきながら、神社へと着く。とりあえず、自販機でスポーツドリンクを買う。咽頭で摂取しながら、かかっている絵馬を眺める。

ブログなんかでは何度も言っているのですが、私は好きなんですよ、絵馬コーナー。合格祈願、恋愛祈願、健康祈願、色々ありますが、ここには誰かの幸せを願う気持ちが溢れている。

別に、これを書いた人で「書いたから絶対大丈夫!」と盲信してる人ってほとんどいないと思うのですよ。これで願いが叶うとは思っていない。宗教や神社は尊いものだと思っているが、理論として効果が立証されているわけではないいと、それはみんなわかっていると思うのです。

だけれどそれでも、書かずにはいられない。願わずにはいられない。そんな気持ちがこの場所には溢れています。木に書かれたインクの一文字一文字に、私は熱を感じます。どんな思いで、どんな表情でこの絵馬を書いていたのでしょうか。これ、こういう気持ちもまた、ディストーションなのです。

それぞれの想いを五角形に込めて、絵馬たちは神社の横でじっと佇んでおります。雨を浴びながら、日に焼かれながら、ただずっと、そこに在るのです。汗ばんだ胸が、またさらに熱くなるのを感じます。

絵馬はね、ディストーションですよ。

ベンチに座ってしばし呆ける。まだ蝉は鳴いている。スポーツドリンクを飲み終えたらゴミ箱に捨て、帰ることにする。

時刻は夕方も近いのに、まだ日はそれなりの高さにある。階段を降りている途中、帰宅中の小学生男子とすれ違う。山の途中に家があるのだろう、大変だなと同情する。彼もまた誰かに思われ、また誰かを思っているのだろう。私だってそうさ。

自転車に乗り、またペダルを漕ぎ始める。汗でシャツが張り付いて鬱陶しい。やかましい蝉も、直射の日光も、深まる明瞭も、入道雲もまだ朗々とそこにある。夏はまだまだ深まるだろう。

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