ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

かつての異世界

 

 

 

 

2021/3/31

 

かつての異世界

 

水曜日なのでラーメンを喰らおうと、しかし遠くへ行くのも億劫なので近場で探してウロウロしていたら、いつの間にか遠くまで来てしまっていた、春。食べたラーメンは、まぁまぁであった。

気がつけば我が母校たる高等学校が近かったので、少し見に行こうと思った。日付も3/31というのは、中々に面白いタイミングである。空気は寒くも暑くもなく、空の色も上々、のんびりと自転車を走らせるのも悪くはあるまい。ペダルを漕いで、散りかけの桜をくぐる。

学校に近づいて、少し驚く。通学路を、結構忘れてしまっている。建物や景色が変わっているとはいえ、千日以上通ったはずの道、剥がれかけてしまっていることに、少し寂しくなってしまう。

学校に、門の前に、着く。母校を、見上げる。

私の在学していた代は、少し特殊であった。ちょうど新校舎の建て替わりの時期であったために、私は1.2年次は旧校舎、3年次は新校舎という形で勉学をサボっていた。在学中に工事が行われて、どんどんと新校舎ができていくのは面白くもあり、新しい教室は綺麗で居心地も良く、食堂や購買なんかも建て替わって、当時の私はそこそこに喜んでいた。

しかし、新校舎が完全にできてしまえば、同時に始まるのは、解体工事である。私が卒業してまもなく、旧校舎の解体が行われ始めた。

 

高校生、そう、私はかつて高校生であった。もう10何年も前の話になるが、私は確かに高校生であった。普段から道で見かける学生服の面々、あれの一団の中に私もいた。

それが私には、いまだに信じられない。小学生や、中学生であってもそうだ。アレは本当に現実のものだったのか。記憶はあるし、事実もある。同時期を過ごした友人や教員もいる。しかし嘘だったと言われれば、それで信じてしまうほど、特異な時間であった。

そしてもう二度と戻る事はできない。行く事もできない。その権利は私から永遠に失われた。そういう意味で、既に私の中では、ファンタジーと変わりがない事象なのだ。ただしそこの住民は、いつでも世を徘徊している。

 

今、私の目には、風景に馴染んだ新校舎が映っている。私が2年間過ごした旧校舎や食堂、購買は、もう跡形もなかった。正門の場所や、駐輪場など、私がいた頃とは、まるで規則が変わっていた。

ここは私の母校である。校庭では部活生が野球やサッカーに勤しみ、1年間は新校舎で過ごしたし、部活で通っていた武道場はそのままだった。しかしそれでも、私の頭の中の母校は、もうなかった。合格発表が掲示された庭、私が入学した庭も、寂れた食堂や購買も、冬は凍えるほど寒い、少し薄暗い教室も、もうない。ただでさえファンタジーであった私の学生時代は、完全に幻の中に溶け込んでしまった。

 

ひとつだけ、校舎の端、当時から用途も分からず行った事もない建物は、そのままの姿で残っていた。薄汚れた壁や、鉄錆びた柵が、何故か私の目に染み込んだ。

しばらく見つめた後、また自転車を漕ぎ始めた。明日から四月になる。

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