ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

かつての異世界

2023/11/21

六番目の小夜子」を読んでいました。

f:id:iijitakahiro:20231121182949j:image

私の読書の原点にして、原典のひとつです。恩田陸と出会っているかどうかで、私の人生は大きく変わっていたでしょう。そのくらい影響を受けています。具体的にどんな影響、ってわけではないのですが。

初めて読んだのは中学生くらいでした。今回が何回目の再読かもはやわかりませんが、読むたびにその時の年齢、その時の考えで読んでいるので、色んな角度からこの本を見る事ができました。こういうのが読書、というか作品の良いところですね。私は変わりますが、作品は変わりません。何度読んでも作品に変化はありませんが、むしろ私の変化した部分を作品は教えてくれます。高校生くらいの友人が、高校生のまま存在してくれているような歓びが、そこにはあります。

 

今回の通読では、この本のテーマである「学校」というモノが、より深く染み渡った気がします。主役は4人の高校生なのですが、むしろ主役は「学校」である、と言っても良いような印象を受けました。

「学校」、「学校」ですよなぁ。私は「学校」というモノから遠ざかって、もう十年以上が経ちました。そのくらい経ってしまえば、あの日々も朧げになります。大学生活ならいざ知らず、中学や高校なんて、もはやファンタジーの世界です。本当に私はあそこにいて、毎日制服を着込んで、重い鞄で登校していたのでしょうか。狭い教室に何十人も集まって、教科書を開いていたのでしょうか。記憶はあれど、その実感はすべて、私から失われてしまいました。五感の何処を尋ねてみても、あの感覚はありません。実に不思議なもんです。

もう2度と通う事はありません。今行ったところで、私を知っている人はいませんし、残っているのは卒業アルバム1冊の中の数文字と数枚の写真、それ以外に痕跡はありません。例え教師になったところで、それは全く別のモノです。いつのまにか故郷がなくなってしまっていたような喪失感を覚えますが、それでも私はあそこにいたのです。椅子に座って、それこそ「六番目の小夜子」を読んでいたのです。