ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

いつかの光景

2024/3/25

昼下がり、昼食を咀嚼しながら、何気なく音楽を聴いていました。

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APOGEEの「Fantastic」というアルバムです。これをね、張り詰めたような真冬の夜なんかに聴くのがとても良いのです。1曲目のイントロから冬の空気が敷き詰められて、外で白い息を吐きながら聴くのが最高なのですが、今年は聴きそびれました。まだ少し寒さは残りますが、冬と言うには高い湿度で柔らかくなった反響とともに、スプーンを鳴らしていました。

何故だか、音楽に伴った忘れられない瞬間というものが、私にはあります。このアルバムもそうです。大学に渡り一人暮らしを始めた最初の冬、前述の通り張り詰めたような空気の真冬の夜、古本屋の帰りにこのアルバムを聴いていました。いくらか慣れたとはいえ、大学一年という由来のわからない莫大な自由を手に入れた私は、広大な喜びと、同量の不安を抱えながら日々を過ごしていました。そんな冬に古本屋の帰り、このアルバムを聴きながら見上げた空が、やけに澄んでいたような気がしました。そんなシーンを何故だかずっと、私は覚えているのです。

他にも色々あります。高校時代、燃えるような夕暮れの下校中に聴いたイースタンユースの「DON QUIJOTE」。大学入学を控えた3月に聴くアジカンの「ワールドワールドワールド」。酷暑の中のナンバーガール「school girl distortional addict」。20歳の誕生日に聴いたピロウズの「Thank you , my twilght.」。晩秋の枯れ葉を踏みながら聴いたベーズボールベアー「(what is the)LOVE & POP?」。本当に何気ない一瞬だったのですが、その時の映像を、何故か私はずっと覚えているのです。

これからの人生も、そんな瞬間があるのでしょうか。昔よりもずいぶん減ってきた気がします。あって貰わないと困るんですが、それにはもっと音楽を聴かねばならんですな。昔よりも随分と、聴かなくなってる気がします。別にそれを悪いこととは思っていませんが、時折少しだけ、そうなった事を寂しくなってしまう時があるのです。