ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

4月23日 京宴、狂乱、そして帰郷。

朝は10時半、大阪の、友人宅にて起床。

就寝は遅かったとはいえ、快適な目覚めを、いただく。寝惚けた頭で、何度も何度も感謝をつぶやく。

睡眠に加え、起きると朝食まで頂いてしまう。「いいよいいよ」とは言ってくれるが、こういう施しを受けて、心底ありがたい反面、やはり遠慮の心も立つ。

我々が、しっかりと事を運び、成功させる事が恩返しと信じよう。暖かい布団をたたみ、挨拶を交わし、友人宅を後にする。

声帯でも心でも、何度も何度も感謝を重ねる。

 


私は助手席に乗り込み、ソウイチロウ君が車を発進させる。ネカフェに泊まっていたサポートの二人を迎え、いざ、京都へと車を走らせる。

約1時間半ほどの運転の末、ノンフィクション、京の地へと降り立つ。

京都南インターからの景色は、もう何回も通っているので、お馴染みになってしまった。県外、しかも何百キロも離れた地に、馴染みを感じるのは、なんだか少しおかしかった。

そして、本日の興行の場所、京都グローリーへと、到着する。

諸挨拶を交わし、搬入を終え、セット図を書き、昨日切れた弦を変えて、一息。ミズニウキクサとも合流して、挨拶と軽口を済ます。

そうしているうちに、リハーサル、スゥッと合わせて、終わる。こんなにスムーズでいいのかしらん。逆にすこし、不安になる。

荷物を楽屋にぶち込み、準備と待機を残して、仕事を終える。

夕方、開演を待つ興行を横目に、ソウイチロウ君は楽屋でギターを弾き、サポートの2人はラーメンを食べに行った。私は1人、スーパーへと向かう。水とエナジードリンク、夕食代わりのパンを2つ買う。しかしパンを買っているうちに、やはしラーメンが食べたくなる。スーパーの袋を抱えたまま、近所の天下一品へ入り、サポートと合流する。

生まれも育ちも福岡であり、ラーメンとは基本的に豚骨であるという教育を受けた私。麺に対しては、ちとうるさい、私である。しかし天下一品は、豚骨というよりポタージュのような味わいは、結構すきである。何より福岡に店舗があまりないので、評価はもう一段階上がっている。

サポート2人と、ミズニウキクサのサポートコウヘイ君も交えて、しばし談笑しつつ、麺をすする。

 


買ってきたパンをソウイチロウ君にあげて、楽屋にて、待機。話したり、ギターを弾いたり、歌ったりする。

過ごしてるうちに、これは、と、油断を感じる。昨日の大阪のライブが、サポートBa.ジョンさんとの初公演にも関わらず、それなりの手応えがあったので、心が油断してしまっている。いかんぞ、これはいかん。緒を締め直す。

開演時間となった。1バンド目が始まる。

1バンド目は、とても若かった。4年くらい前から、対バンの中で最年長、という機会が増え始め、現在29歳の私は、ほとんどの場で最年長になってしまっている。若いバンドを見れば見るほど、自分の歳を感じてしまう。

歳を、とったもんだぜ。歳に見合うバンドは作れていると思うのだが、歳に見合う数字は作れていないのだよな。

こういう思考にも、歳を感じてしまう。

 


対バンは進み、次は我々の番となる。

ステージ横の控え室にて、心持ちを整える。ジョンさんとは、今日が終わればしばらくは合わないだろう。それも少し、寂しく思う。

しっかりと、ライブを、せねばならん。

 


出番となる。

SEと共に入場、セット、全体のキメでSEを止め、喋り、合わせ、解放して、さぁ曲が始まる。

私という人間の、奥底に眠る情動を、テキストと演奏で編み出したものを、見ず知らずの他人の前で、ぶちまける。こんなに楽しい事は、そうそうないと思わんかね君。

楽しいがしかし、3曲目で弦が切れる。またか、またお前か、くそう。なんだお前は。

本日も、別のバンドの方にギターを借り、ライブを続行する。途切れてしまったが、熱はきちんと取り戻した。その熱量をもって、ライブを30分のショータイムに、仕上げていく。

そうしているうちに、終える。ありがたいことにアンコールまで頂いた。弦が切れたものの、お客さんからの心を感じたので、やる。「眠れる夜に」を披露して、ステージを終える。

そして、物販に立つ。多くはないが、求めてくれる人と、何人か出会える。次の関西の予定も聞かれた。本当に、嬉しいものだ。

ありがとうございます。

物販を終え、片付けを終え、バーカウンターにて、軽い打ち上げが始まる。店長のアンザイさんと、じっくりと話し込む。どこのハコも、どこのバンドも、一筋縄ではいかない現状である。そんな中、安定とは程遠い我々を、今回、誘ってくれたのである。

アンザイさんには、本当にお世話になっている。何年も前から何度も来ては、一向にお客さんが増えない我々を、それでも何度も誘ってくれる。

いずれ必ず、この恩は返さねばならぬ。

そんなアンザイさんは、少し前にパパさんになったらしい。お子さんの写真も見せてもらった、破顔しかできない。お子さん、いいなぁ。

夜も深まったところで、挨拶を交わし、我々はグローリーを後にする。諸事情あり、ミズニウキクサ号を我々のサポートDrみょーちんが運転し、こちらの車にはミズニサポートのコウヘイくんが乗る事になる。

ソウイチロウ君の運転の元、車内では、謎のモノマネ大会からの、無限に続くワードウルフで、数時間が流れる。

ちなみにモノマネ大会で披露した、私による福山雅治「虹」は、車内を混沌へと陥れた。

そして広島県、示し合わせたかのように福山SAにて、ミズニウキクサ号と合流、ミズニとはここで別れ、みょーちんを加えて、我々は小倉へと向かう。

私が運転しようとも思ったが、ソウイチロウ君がまだいけるそうなので、甘えさせてもらう。後部座席で、みょーちんと共に、眠る。

 


起きたら、朝であった。

そして、小倉であった。おいおい、大丈夫かいソウイチロウ君よ。やるじゃないかソウイチロウ君よ。眠れてありがたい反面、1秒も運転していないので、少しだけ、後ろめたい。少しだけであるが。

サポート2人を家まで送り届けて、我々はソウイチロウ君宅に、戻る。ソウイチロウ君よ、お疲れ様だぜ。

荷物をまとめて、すぐ福岡に戻ろうかとも思ったが、やはり私も、疲れはある。もう少しベッドで寝させてもらう。

 


8時間の運転を1人でこなし、家に戻るなりギターを弾き始めるソウイチロウ君に尊敬と畏怖を覚えながら、目を閉じる。

こいつ、マジかよ。