ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

5月11日 ディアーチャイルドアイランド

目が覚める。何時かはわからない。

身体が圧迫されているのを感じ、自分が車中泊をしていたことを思い出す。

そして、気がついてしまう。車内が、おい、暑いぞ。

昨夜、眠った時は、そうではなかった、しかし朝が来て、車が太陽で熱され、我々はゆっくりと蒸されていたのだ。そうだ、ここは熊本。熊本、暑いぞ。暑い、とりあえず、水を飲む。

この暑さを何とかしたい。むしろ一度、外に出たい。しかし私は車の最後部座席。私が出るためには前で寝ているソウイチロウ君をシェイクせねばならぬ。昨日も運転で疲れているソウイチロウ君である。無闇に起こしたくはない。

結論、我慢をする。もう一度横になり、眠る。


少しして、ソウイチロウ君の声で目が覚める。

どうやら、少し離れた銭湯に行くらしい。特に異論はないので、返事をして、車を出してもらう。時間は9時くらいか。正味眠かったのでこの辺の記憶は曖昧だが、とにかく私は、もう一度眠った。


起きると、銭湯であった。

そしてそこは、極楽でもあった。

我々は死んだら天国行きなので、そのロケハンもついでにしておく。


さて、色んなモノを洗い流し、落ち着く。旅の湯で気をつけねばならんのは、浸かり過ぎると、汚れと共にやる気まで洗い流れてしまうのだ。ほどほどに、しておく。


車を発進させ、仲間たちが泊まっているネカフェへと向かう。合流すると、11時。ソウイチロウ君運転の元、鹿児島へ向けて発進する。


しかし、私、ソウイチロウ君、みょーちんの3人は、もうずっと遠征で一緒にいるので、そろそろ話す事が、少なくなっている。昨日の疲れも少し相まり、お嬢は瞬間的に眠っているので、それなりに無言の車内が、九州道を刻んでいく。そして、暑い。

休憩込み3時間ほどの運転で、鹿児島に着く。久々のSRホールである。荷物を積み込み、既知の挨拶をする。スタッフの皆さんに手伝ってもらいながら、搬入。ありがとうございます。

改めて、到着。鹿児島SR HALL。宜しくお願いいたします。

またしても弦を切りながら、リハーサルを終える。うんざり、だぜ。もう。

して、お嬢と2人で飯を食いに行く。キャベ丼という鹿児島の英傑が食べたかったが、店は昼休憩であった。SRのスタッフさんに美味しいお店を聞き、勧められたカレーを、食べに行く。田中カレーというお店である、美味しかったです。

 

さて、一息。まだスタートまで時間はあるので、私はポスターを持って、街を徘徊する。鹿児島、天文館、やはりこの街は、平均よりもだいぶ、街が明るい気がする。モノは多くないが、ちょっとだけ丁寧に作られていて、街全体がしっかりと繋がっている気がする。やはり好きです鹿児島。

少し歩いた先の、リハーサルスタジオに置いてもらう。ありがとうございます。そこから、知り合いのやっているバーに行ってみたが、やはり空いていなかった。仕方ない、戻る。

そこからは、パソコンを持ってきたので、映像の作業をする。いい加減、遅れすぎにも程がある。旅にパソコンは、色々な危険もあるので、あまり持ってきたくないのだが、今回は仕方なく、持ってきた。開き、作業を進める。あと少しのはずなんだ。

映像をいじっていると、開演時間になる。対バンを見ながら、心持ちを整える。しかし、ここまであまり、MCを考えていなかった事に気がつく。パソコンやポスター配りで圧迫されたか、急ぎ、考える。

 

我々の出番前である。少し控え室が揺れているのを感じる。地震か?この二日間、宮崎で弱くない地震が起こっているので、少し不安であったのだ。間違いなく揺れている、マジか、どうなる。収まるのか?ライブはどうなる?ライブ中に揺れたらどうなる?どうする?

心配事を抱えながら、前の演者が終わったので、ステージの準備をする。スタッフさんに地震について聞いてみると「あぁ、上で大学生イベントやってるんで、飛んだり跳ねたりしてるんですよ」とのこと、おい、なんだそれは。私の心配を返せ。

そして、出番である。しまった、MCがまだ、まとまっていないぞ。

 

出番である。
仕方ないので、地震について話しながら、ライブを始める。爆音を合わせて、波を拡大させる。レコ発から数えて、ツアーも7本目。だいぶ余裕も出てくる。それは同時に慢心でもあるのだが。

そして案の定、弦を切る。曲中に、ミズニウキクサのサポート、コウヘイ君のギターを借りる。ありがとうと呟いたら、引き続きピックを弦に叩きつける。

ギターの弦が切れるのはいい。良くないが、いい。どんな時でも切れる時は切れる。不可抗力である。

しかし、今日はその後、私が少し焦ってしまった。MCがまとまっていないこともあり、流れが全然、スムーズではなかった。それでも何とか喋りながら、ライブを終える。

 

機材を片付け次第、楽屋で目を覆う。くそ、くそ、くそ。何をやっているんだ、私は。いくらでも、もっといい30分にする事はできたはずだ。お客さんの買うチケットの価値を、相対的に下げてしまったのだ。これが申し訳なくなくて、なんなんだ。くそ。

気を取り直す。これは、これだ。片付けを終えて、対バンを見る。そしてそのうちに、公演が終了する。

それでも、物販を、CDを買ってくれる人は、いた。本当にありがたい。感謝の念を口で伝えて、心中で少しだけ詫び、次はもっと、と誓いを立てる。宜しく、お願い、します。

 

すべてが終わり、そのままホールで打ち上げをする。色々と、話す。対バンの人が、私のバイト先に来ていた可能性があり、大いに盛り上がる。その後は、店長のスヤマさんと、バンドの界隈についての話をする。どこもだいたい、悩みは似たようなもんである。解決策は、ないものか。

 

打ち上げも終わり、機材を搬出させた後、メンバーはそのまま車で飯を食いに、私は昼に行けなかったバーに、スヤマさんと共に行く。

夜の鹿児島を、2人で歩く。スヤマさんと話していると「薩摩」を感じる。何が、という訳ではないが。

バーに行ってみたものの、見込みが違い、DJイベントをやっていた。このまま、遅くまでやるそうだ。仕方なく、バーの店長、水中ブランコのゆうたさんに挨拶をして、ポスターも託し、店を出る。その後はスヤマさんとラーメンを食らう。豚骨に削り節が独特の、鹿児島ラーメンである。うまし。

その後はスヤマさんと別れて、私はSRの建物1階のベンチで、仲間の迎えを待つ。土曜の夜、目の前は狭い道だがタクシーは往来し、ちらほらとやはり人はいる。鹿児島訛りの会話を聞きながら、買ってきたコンビニコーヒーを、飲む。鹿児島訛りは情緒があって好きだが、コーヒーはエラく雑味が強かった。顔をしかめながら、仲間たちを待つ。

 

少しすると、見慣れた白い車がいた。乗り込んで、いざ、帰路につく。4人と荷物と疲弊に満ちた鉄塊が、これより九州を、北上する。

ここから、5時間ほどだろうか。日付はもう、変わっていた。