ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

5月20日 その男、疲労に月。

朝は、10時に起床。自宅のベッドで目覚める。わたし、自宅のベッド、すきー。やはり寝起きに、精神を使わなくてよい。

しかし、やはり昨夜も、夜更かし。というか、単純に私、夜の方が身体が動く気がしてきた。ずっと深夜で働いていたので、これはいかんと矯正をしていたのだが、最近夜業務をしていて、妙に「しっくりくる」。夜型の人間なのかもしれぬ。ううむ、難儀だ。

 

本日は四次元にてライブである。バンドではなく、ソロでのライブである。ソロを福岡でやるのは久しぶりである。別にやりたくなかった訳ではないが、バンドで忙しいのと、あまり誘われないのと、昨年のソロでやったツアーがセールス的に厳しかったので、少なくはなっていた。

とりあえず、バナナを齧る。夜更かしで繋がった朝は、とても眠い。会場へと入り時間は遅いので、もう少しだけ、眠る。

少ししたら起きて、動画を始める。本来、ライブの日にライブ関係以外の事をあんまりしたくないのだが、時間があるなら作業はせねばなるまい。切り刻んだ動画を、繋ぐ。

 

少しして、飯にする。ライブの日の飯はとても大事である。ライブのその瞬間のエネルギーを補充せねばならぬ、大事である。

大事ではあるが、家に大した食材がない。買いに行くのも億劫で、仕方なく袋麺と卵、納豆を食らう。

 

また少しして、アコギを練習する。今回、あまり準備ができていない、一年前やっていた曲が、結構に弾けなくなっている。まぁ一年前でも、そんなに弾けてなかったのだが。

練習をしていたら、時間である。荷物をまとめる。余裕があったはずの時間がなくなり、最終的にバタバタするのは、いつもの私の出来事である。

 

ギターを背負い、バッグをかるい、キャリーを引いて、いざ、自宅を出る。バンドの車は北九州に置いているので、電車になる。ゴロゴロとコンクリートを削りながら、駅へ行く。雨が降っていたが、小降りなので強行する。この荷物では、傘もあまり意味を持たぬ。小降りでよかった。

 

さて、街。四次元に着いたら、諸挨拶を交わす。本日主催の、広島のバケモノ深居優治とも挨拶をする。リハ中にも関わらず、喋るし動く。相変わらずのテンションである。私が言うのもアレだが、濃いい濃いい。

話していると「イイジさんには曲の良さを見せて欲しい、あと笑いも欲しい」との事。なるほど、少し、セトリを変えるとしよう。

オーダーシートに記入したら、リハーサル。リハーサルと言っても、弾き語りはもう四次元で、えらい数やらせてもらってるので、確認する事もあまりない。さくっと終わらせる。

顔合わせを終えて、5時。本日出番は1番目、6時20分からである。あまり時間もない。態勢を整えに、コンビニへ行く。

 

行く途中から、急に身体が疲れ始める。疲れ始めるというか、疲れに自覚を始めたのだろう、結構な疲労感が全身に広がる。連日の作業や、ライブを観に行った甲斐があったものだ。いかん、これはまずいぞ。

こういう時は眠るなりで一回気を切って、再度入れ直しているのだが、本日の四次元は楽屋も狭いので、そんな場所はない。気分直しに甘いものでも腹に入れたい、ライブのカロリーも摂りたいが、出番も近い、やめた方がいいだろう。どうする、これは、まずいぞ。そもそも、MCやライブの流れも詳しく考えていないのだ。これは。

重い頭を、なんとか保ちながらコンビニへ。逡巡した結果、コーヒーとウェダーインゼリー、エナジードリンクを購入。イートインにて前ニつを胃に入れて、しばし、目を瞑る。こんな時にも、ライブ以外の、映像作らなきゃ、とか、台本書かなきゃ、とかが、頭を揺らす。オイオイオイ死んだわ私。

それでも、やらねばならぬ。時間が近づいたので、目を開けてコンビニを後にする。エナジードリンクを入れながら四次元へ。出番待機とする。変わらず体調は良くない、気持ちのスイッチも入らない。たまに聞く「好きな音楽でスイッチを入れる」方法をやってみる。こういう時は、炸裂音に限る。十分ほど、ゆれるとハヌマーンを耳に入れ、少しだけ気を取り直す。


それでも、それでも、やらねばならぬ。

ステージに出て椅子に座り、音が出る事を確かめると、手を上げて合図を送る。会場のBGMが下がったら、私の、時間である。

喋り、鳴らし、歌う。よし、何とか動き出しはした。あとはこのまま、転がりに、転がれ。何処までも、ゆけ。ライブに百点などない。正確には、満点などない。何処何処までも、数字を伸ばしていく、ただそれだけである。

三十分、ライブを終える。機材を片し、楽屋にハケる。それなりには、転がった。少なくとも、演奏前の心配は杞憂に終わったようだ。耳に入る評判も良いものである。安心を、する。しかし、疲れたな。

ここ二、三日、作業の多さもあり、今日のライブが正直厳しかった。何度か、受けなけりゃ良かったとも思った。しかし、ライブをやってみれば、受けて良かった以外の気持ちは、まるで湧いてこないのだよなぁ。こういう日は、結構ある。

 

あとは、片して、ライブを見たり、共演者やお客さんと話したり、転換の合間にマックを齧りに行ったり、またコンビニで目を瞑ったり。最後に深居優治のライブをみて、公演は終わった。

 

四次元内での打ち上げが始まり、皆とまた話す。面白そうな人間とも会えた。本当に、出て良かったと思っている。ありがとう深居優治。君はバケモノを自称してたり他称されたりしているが、人間からの信頼は篤い。羨ましいもんだ。人間に慕われるバケモノ、そんな童話があった気がする。うろ覚えではあるが。

終わると、皆で飯に行く。うどんをすすりながら、珍しく音楽の話をする。打ち上げで音楽の話をするなんて!なんて珍しい。しかしこれも、楽しい。明日は朝番なので、早く寝たい気持ちもあったが、ついつい長居をしてしまう。

 

結局2時半頃、自分のお代だけ置いて、別れを告げる。深夜の天神を歩き出す。満腹と高揚と眠気で、意識は揺れるが、悪い気分ではない。春の夜のぬるい街並を、朧がかった月が、憂い気に照らしていた。月は少しだけ欠けていたが、それにもまた愉快を感じ、今夜の宿を探しに行く。これで明日の仕事さえなければ、なぁ。

ネカフェに入り、流れるように、眠る。