ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

5月26日 ラージアイランドにて

ノックの音が、響く。ハッとして、目を覚ます。窓を見ると、サポートの2人が立っていた。もうそんな時間か、あぁ、起き過ごした。扉を開けて、朦朧の意識で曖昧な返答をする。私の思考のローディングを察して、2人は先に買い出しに行ってくれる。感謝をしたら、頭を振るいながら、存在を起動させる。

そう、ここは広島。某所のネットカフェ、の、立体駐車場である。無機質な風景は風情がない。昨日買ったぬるい水を食道に流し、車を降りて、車中泊明けの身体を伸ばす。それなりに眠れたが、疲れが取れたかと言えば微妙ではある。車中泊、苦手ではないのだが、やはり足が伸ばせないのが難点か。

ソウイチロウ君はもう起きていた。私はやはり昨日の、というかむしろ連日の疲れが抜けきれず、しばらくは意識を放浪させる。


本日は広島COMAにて、ライブである。

サポートの2人も帰ってきた。車を発進させ、近くの銭湯へと向かう。先日発見したネットカフェは、立体駐車場つき、1階に24時間スーパー、銭湯まで車で5分という、すさまじい立地にある。広島周りの遠征は、ここが拠点になるだろう。

銭湯に着く。サポートDr.みょーちんはすでにシャワーを浴びたそうなので、3人で中に入る。時間の余裕はあるので、ゆっくりと、みそぎに、みそぐ。旅先の銭湯は、まさに極楽と化す。だがもうちょい値段、なんとかならんか。私は最悪、コインシャワーでいいのだが。

風呂を出る。アイスやジュースの誘惑を冷水機で黙らせながら、待合室でしばし、気を抜く。その間に昨日のブログを書く。

 

車に全員集合し、さて、出発する。広島はGtソウイチロウ君の故郷であるため、心なしか彼もテンションが上がっている。「『ここがコンビニになってる!』って何回も言ったらごめんね」と言った割に、全然コンビニになっていなかった模様。なんだそれは。

いくつかの長い川を越え、市街に着く。ライブハウス前に止めて、知人の連絡を待つ。周りを見渡せば、無料案内所がひしめき合う地帯であった。昼間の風俗街というのは、どこも開いていない割に看板は派手で、例えるなら雑魚寝をしているアイドルのような、独特のおかしみがある。別に蔑むものではないが。

 

少ししたら、本日主催のcotlaのドラム、ジュニさんがやってくる。ノンフィクションは、私のソロも含めて、cotlaにはもう5年くらいはずっとお世話になっている。ありがたい話です。まじ。

まだハコが開いていなかったので、1度車を止め、先にお好み焼きを食べる。広島のお好み焼きはね、あれはもう芸術である。あれだけの具材を、よくここまで入れ込んだものだ。奇跡の収納術である。うまし。

途中、cotlaのベースのまついさんとも合流する。酒を飲みながらパンケーキを食ってきたらしく、今はこちらで煮物をつついている。なんかすごい。

 

店を出て、ライブハウスに向かい、車より機材を搬入する。さてリハーサル、といったところで、昨日弦を3本切ったのを思い出し、急いで張り替える。うんざりが過ぎる。

リハーサルをやって、リハーサルを終える。しかしやる事は多い、とりあえず、衣装を車に忘れたので、取りに行く。場所がわからないので、ソウイチロウ君に案内してもらう。車に着き、回収すると、そのまま座席に座って、息を吐く。

 

なんだか、凄く疲れてしまった。完全に尻が、存在が、座席に張り付いてしまった。病み上がりで通すこの遠征、体調は極めて悪い状態にある。この後の流れは、顔合わせまでに店に戻り、ドライバーとレンチを買い、ギターの調整をし、CDを持ってタワレコに挨拶に行き、そこから間もなく出番である。が、現体調と示し合わせて、全てやる事は不可能である。色々考えた結果、ギター調節と顔合わせをソウイチロウ君に任せ、私は少し車で寝させてもらう。起きたらCDを持ってタワレコに行く、という流れになる。ソウイチロウ君に礼を告げ、私は助手席のシートを倒し、携帯でタイマーをかけ、目を瞑る。

顔合わせ、行けなかったのが申し訳ない。しかし、我々の目的は良いライブをする事である。それさえすりゃ良いという訳ではないが、それを脅かすものは極力減らさねばならない。

意識を切って、呼吸を整える。


目を覚ます。30分ほどは眠れたか。脳は、比較的晴れている。疲れも、さっきよりは感じない。よし、よし。車を出る。道中コンビニで、甘いものとコーヒーを入れておく。より意識が晴れる。よし、よよし。

 

ライブハウスに戻り、仲間に帰還と詫びを告げる。すぐにCDを持って、タワレコに向かう。広島の街並みを抜けてパルコへ。広島のタワレコには、昔、CDを出すときにお世話になった方がいるのだ。北九州の店舗から広島に異動になり、接点は減ってしまったが、是非に現状を報告しておきたい。

しかしクソ長いエレベーターの末に私を待っていたのは「前店長は異動になりました」という事実であった。すう、と、気が落ちる。膝上10センチくらいまでは、落ちる。


切り替えて、帰宅。オープニングアクトのwelcome fiveがもう始まっていた。ピアノを弾く男は私と同じ「タカヒロ」という名前を持つだけでなく、なんともイカした男である。ポップな劇薬みたいな彼が弾く、ピアノの乱舞が心地よい。

2番目の、criminal bunny girlの漏れ音を聞きながら、出番待機。体調は比較的マシであるが、耐久は低そうだ。それでも幕は開くので、やらねばならない。お客様に、礼は、尽くさねばならない。私の体調で、チケットの値段は変わらないのだ。

して、出番である。SEと共に入場して、喋って、音を鳴らす。よし、噛み合いを感じる。歯車がグルンと、回っていくのを感じる。そのままだ、そしてもっとだ、回せ、回せ、回転を、回転を。

30分、音を立てて歯車を回し、多大なる発熱を経て、ライブを終える。体調は心配ではあったが、よいライブが、できたと思う。

 

その後モンキービジネスというを見る。モンキービジネスは、我々、結成3回目くらいのライブでの対バン相手でもあるのだ。お互い、まだ続いていることに、驚愕ですよ。しかしそういう存在がいる事は、とても、嬉しい。

最後はcotlaである。ミニマル感が回転して、ステージ上でうねる感覚が、とても良い。大蛇みたいなグルーヴが、舞台上で踊る。ええなぁ、楽しんでいると、グッと腹痛を感じ、何度かトイレを行き来する。体調も、別に良くなった訳ではない、注意をせねば。


アンコールまで果たし、公演は終わる。物販を終わらせ、清算も終わる。機材を片したら、残った人間で、打ち上げ代わりの飯を食いに行く。cotlaの知り合いのやっている、洋食屋さんである。こじんまりとして、とてもお洒落である。出して頂いたハラミ丼がとても、とても、とても美味でございました。私はちょっと、泣いたぞ。

しばし談笑したのち、店を出る。最終的にはストリーファイターの話題になりながら、cotlaとは別れる。なんだそりゃ、ありがとうございました。

車に乗る。私は体調がアレなのと、帰るなり地獄のバンド業務が待っているので、後部座席で寝かせてもらう。助手席に座ったみょーちんと、運転ソウイチロウ君の楽しそうな会話を聞きながら、会話に参加したい欲を抑えつつ、横になる。文字通りの肩身がせまい環境にて、しばらく姿勢を探求したのち、すぅと、意識は落ちる。

広島、楽しかった。いい日で、ございました。