ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

カワル

 

 

 

 

 

2022/6/26

カワル

朝の7時、大阪寺田町の、小さなゲストハウスの一室で目覚める。

布団の上からでもわかる骨みたく硬い床と、本気で潰した食パンくらいになる薄すぎる枕では、例えホテルでの就寝であっても厳しいものがあると、身に染みながらの起床。染み込みすぎて全身が痛い。気温さえなければ、車中とあまり変わらないかもしれない。中々、きびしい。

とはいえ、起きねばならんので起きる。呻きながら身支度を整え、ロビーへと向かう。ロビーに放置されたノートやスケッチブックに書いてある、外国人が頑張って書いた日本語に微笑しつつ、持ってきたカロリーメイトを水で流し込む。

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多分 もうすぐ1:00になるからです!の勢いに笑ってしまう。

皆が揃ったらチェックアウト、車に乗り込み、発進させる。運転は私がするつもりであったが、岡田くんが買ってでてくれた。そこまで快適な眠りはなかったので、とてもありがたい。私は助手へ座り、後ろにはコージ君。同じく睡眠不良のソウイチロウ君は最後部座席で眠る。

環状線を通って高速へ、広島への道を辿る。道中、陰キャ陽キャの定義や存在について話し合ったり、私とコージ君で、恋愛マスターたる岡田くんへ色々と相談をするなどする。32歳男性2人が、女性へのアプローチ法等を真剣に聞き入っているのは、控え目に言って地獄である。まぁ私はそんなね、べつ、恋愛とか興味ねーし、そーだし。ったく。

岡山を刻み、広島へと到着する。広島オールマイティ、3度目か4度目かくらいの出演である。

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こういう景色は、なんか不思議と「広島」って感じがしてしまう。原因はわからんが、なんとなく、福岡や北九州にはない景色である。

 

機材を搬入し、挨拶をして、リハーサルをする。リハーサルを終えたら、みな速やかにお好み焼き屋、ふみちゃんへと向かう。前回の広島でのライブの日、リハから開演までの時間が短く、お好み焼きが食べられなかった事を、今日まで根に持っているのだ。その足取りは迷いなく、実に速やかであった。

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そして、満を辞してお好み焼きを頂く。美味すぎる。広島のお好み焼きは何度食っても綺麗に食べられる気がしないが、関係なしと豪快にがっつく。小麦、肉、麺、野菜がソースに絡み、味覚を蹂躙する。うまい。

とてもうまいが、しかし私は腹の限界を感じ、1/6ほどを残してメンバーに分ける。前回の広島でのライブ、お好み焼きが食べられなかったことで、翌日の小倉でのライブで飯を食らいすぎて、危うくライブに支障が出るところだった事を、今日まで根に持ってるからである。泣く泣く、メンバーに分ける。

店を出ると陽が白く、看板の色彩は強まって、街はもうすっかり夏の様相をしていた。道行く人の1人がNo FunのTシャツ、また1人がマスドレのTシャツを着ていて、またさらに夏だった。夏、もう、来ているな。

 

コーヒーを飲み、体調と精神を整え、顔合わせがあり、開場もする。本日広島オールマイティは7バンド、昨日に続いて大所帯である。気を引き締める。

対バンを見たり、靭帯を伸ばしたりしているうちに、我々の出番になる。今日の共演は全体的に若く、後で知ったが18歳なんかも居て、32歳の我々は戦々恐々としている。昨日の疲れは確実にあるが、若年層に意地を見せてやらねばならん。

SEが鳴って、入場をする。爆音で鳴らして、マイクの球体に向かって吠える。何処に行っても、何歳でも、ステージに立てばやることは変わらない。ただ我々は、十代と変わらぬ情動と、二十代を圧倒する演奏、三十代で見劣りせぬ衝撃を見せてやらねばならぬ。19歳から使ってるギターを掻き鳴らして、0歳から震わせてる声帯を轟かせる。

頑張りました。最後のMCで、格好つけながら噛んでしまったのは15歳くらいでしたが、その後、より良く立ち直せたのは32歳だったと思います。

ありがとうございました。

 

ライブ後、打ち上げをする。誰も何も言ってないのに、立ち上がって名乗りを上げて手元のアルコールを飲み干す奴がいた。なんと懐かしい。ああいうのばかりの打ち上げがね、昔は主流だったんですよ。私はやったことないしあのノリは嫌いでしたがね。やる奴は別にいいのですが、それを見たクソみたいな大人や先輩のバンドが「やらないと駄目」みたいな空気を出すのが嫌でした。反吐が出ましたね。私は一回たりともしていない。

最近は平和になりました。良い時代です。

そして打ち上げで「ひこ」のつけ麺を食べることができて、私は泣く。時間的に遅くまではいられないので、食べられないと思っていた。出前であっても広島つけ麺を食べられるのは、めちゃくちゃに嬉しい。

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懐かしい。口内炎の時に食べて死んだ思い出もあります。ああ懐かしい。

 

日付が変わったくらいで、我々は撤収をする。機材を乗せ、挨拶をして、車を発進させる。

運転はソウイチロウ君。そういえば私はこの遠征一回も運転をしていない。きちんと申し出ていたとはいえ、なんか申し訳なくなる。

深夜、山陽道を下りながら、ずっとゲームの話なんかしてる我々は、二十代の頃と全然変わっていない。これもいつか変わってしまうのだろうか。我々もいずれは四十代、五十代になる。それは素直に怖いが、今はただ、できるだけ笑いながら帰るのみである。