ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

8月5日 さいしょのステージ

朝は10時ころ、ソウイチロウ君宅にて起床。

昨日のライブでの疲れは、当然のように残っている。グダグダしながら、布団と癒着する。

 

11時ころ、朝飯、もとい昼飯を食べようと、自前のパックご飯をレンジで珍、何か、卵一個でも拝借できればと冷蔵庫を開けるも、結構に、何もなかった。

見込違い、とはいえ、人様の家なので文句は言えない。冷蔵庫を開けるのも本来は事案であるが、私かて泊まるたび少しではあるがお金を入れているので大目に見て欲しい。少し、本当に、少しだけれど。

 

白米をそのまま食べるか、塩かけて食べるか。どっちも嫌なので、近場のドラッグストアに出かける。買ってくるものあるか?と、まだ寝ているソウイチロウ君に聞いたら、俺も行く、との事で、2人で外に、出る。

 

ドラッグストアにて、本日の夕飯を含めた買い物をする。この時ソウイチロウ君が買った洗剤が、実は柔軟剤である事に気がつくのは、もう少し後の話。

 

まぁお金はないので、卵、納豆、豆腐、価格設定の狂った餃子、諸々を買って帰る。戻って白米に豆腐をかけて、納豆をおかずに、食べる。豆腐飯は、美味しい。見た目は残飯ではあるが。

 

そのまま、私は、もう少し、眠る。

疲れか、夏バテか、若干風邪気味でもあるかもしれん。どっかで、リセットせねば、ヤバイなこれ。

 

本日は夜、演劇の練習である。場所をどうするか、思考が錯誤していく。結局、「ソウイチロウ君ちを超片付ける」という案に収まった。やはり、金がないのである。

過去の触れられざる部分まで、超片付ける。ソウイチロウ君宅はそこまでモノは多くないので、そこまでの時間はかからなかった。

 

片付けが終わったら、時刻は夕方。時間まで、動画を作り始める。ブログを見ればわかる、実は、動画作業を全くしていないのだ。こいつは、ヤバイ。

カタカタと、動画を切り刻み始める。そのうちに時間になり、ソウイチロウ君はりんごちゃんを迎えに行く。私はまだ、刻む。

少ししたら、炊いてくれた白米を、狂安の餃子で食べる。また納豆と豆腐と卵も、食べる。栄養素、足りているか、不安である。

 

食べ終えたら、コーヒーが飲みたくなる。1杯だてのコーヒーを切らしてしまっているので、コンビニまで歩く。戻ってきたら、ソウイチロウ君が帰宅していた。少ししたらあきら君も到着、練習を始める。

 

クライマックスのシーンを、念入りに詰める。ただでさえ難しいシーンに、「面白そうだから」さらにギミックを盛り込んでいく。面白いのが一番だよ。上手くやらねば、ならんけど。

 

同じシーンを、修正加えながら十度近く繰り返して、練習を終える。私はりんごちゃんを車で駅まで送る。終電ギリギリになり、肝を冷やす。

 

帰り道、寄りたいバーが閉まっていたので、思いつきである場所へ車を飛ばす。我らが母校、北九州市立大学である。

何を隠そう、今度の演劇の舞台は、我々がかつて所属していた軽音サークルがモデルとなっている。舞台のために、今一度、見ておかねばならぬ。

近場に車を止め、大学内へ入る。

 

サークル会館に入るだけで、懐かしい。湿った匂いがする。手すりの汚れ、剥がれた貼紙、ボロボロの椅子、全てが、懐かしい。

部室に入ると、懐かしさは加速する。散らかった部室、疲れて眠ったソファ、壊れて放置された機材、誰のかわからんCD、暇を極めたニンテンドー64、巻数がバラバラの漫画。

ライブが近いのか、用意されていたステージに立つと、あらゆる思いがそこにあった。4年間、そこに立って、皆、誰かの歌を歌っていた。皆、笑っていた。しかしその裏では、よくわからんいがみ合いがあり、誰かの退部があり、盗難事件があり、ヘイトの飛ばし合いがあった。しかし、その日になれば、ライブになれば、皆、笑っていた。

 

濃密に引き延ばされた灰色の日々、しかしそれは間違いなく、私の青春であった。私のバンドの、原点であった。

 

思いに浸っていると、現役生が入ってきた。しまった、OBとはいえ、完全に不審者である。言い訳を考えていると「イイジさんですか?」と、私は知られていた模様。良かった、やったぜ、有名。

 

現役生のタイチくんと、今と昔を織り交ぜた思い出話をする。現状との差異で、また懐かしくなる。構造やシステムは変わったけれど、中にいる人々の様相は、まるで変わっていないのだろうな、と思う。少し笑う。

演劇の宣伝をさせてもらい、ポスターも貼らせてもらい、部室を後にする。

 

そのまま、大学近くのコンビニでソルティライチを買い、飲みながら、昔住んでいた場所なんかを、ウロウロと、する。

それなりに変わってしまった景色を見ながら、コクリと、喉を鳴らす。夜は夏の膜に包まれて、蒸し暑い。うろつく大学生とすれ違いながら、車を発進させ、帰宅する。

 

帰ると、ソウイチロウ君はもう眠っていた。扉を閉めると起きたので、大学に行ってきた旨を話す。写真を見せるも特にリアクションはなく、また眠った。

私もじきに、眠った。