私の通っていた大学には、サークル総会、というものがあった。体育館にて、サークルに入ってる人を全て集めて、その年、全体の総括をする会である。
だが、ほとんどのサークルにとって、全体の総括などどうでもよい。興味もないので、時間の無駄、と思っていただろう。しかしこの会の参加人数で年度の予算などが決定されるため、サークルに所属する人間は全員が参加せざるを得なかった。
数時間に及ぶ、興味のない会合。いかにして暇を転がすかに全力を尽くす大学生が我慢できる訳がない。各々、持ってきた漫画を読むなり、ゲームをするなりして時を過ごしていた。主宰の方もそれはわかっていて、邪魔にさえならなければ黙認、という形をとっていた。
壇上の話を聞き流しながら、サークルの同窓は先輩が持ってきたジョジョを無限に読み込んでいた。昨年の総会で6部まで読み切ってしまった私は、持参した小説を読んでいた。時期は確か、6月だったと思う。雨こそ降らないものの、湿度が高かった事を覚えている。
そして、読んでいた小説に、とてつもなく、引き込まれていたのを覚えている。
ひとつの事件を、様々な人間からのインタビューで紐解いていく、そんなミステリー小説である。
色んな人間が話をするが、噛み合っていたり、食い違っていたりしていて、真相は中々見えてこない。少しずつ近づきながら、より中心の闇が濃くなっていくような感覚に、夢中になって読み耽っていた。
そして作中、何度も「フィクション」「ノンフィクション」という言葉が出てくる。
そう、当時は2009年6月、同期のソウイチロウ君と、オリジナルのバンドをやろうぜ、と意気込んで、準備をしていた時期である。
バンド名をどうしようか、ずっと悩んでいた。当時は「凛として時雨」「神聖かまってちゃん」など、奇抜なバンド名が流行りであったので、私はシンプルなものを求めた。
敬愛するバンド「the pillows」が、このバンド名にする際、何かのバンドの曲名から取ったという話を思い出し(後で調べたら、アルバム名だった。どちらでも良いが)、ならば好きなピロウズの曲名から取るか、と考えていた。
その第一候補であったのが「ノンフィクション」であり、あとはそれに最終決断を下すだけ、という状況であった。
しかし、そこは私、いつまでもビビリ散らし、これで良いのか?本当にこれで良いのか?と、決断を先送りにしていた。何せ、バンド名。そう簡単に変えられるものではない。
そんな思いの中、この本を読んでいた。
『ノンフィクション?あたしはその言葉が嫌い。事実に即したつもりでいても、人間が書くからにはノンフィクションなんてものは存在しない。ただ、目に見えるフィクションがあるだけよ。目に見えるものだって嘘をつく。聞こえるものも、手に触れるものも。存在する虚構と存在しない虚構、その程度の差だと思う』
自分が「ノンフィクション」にするかどうか、悩んでるタイミングで、この文章を見た、私の気持ちを察して欲しい。
ミュージシャンが歌ったからといって、当人がその歌詞通りの事を考えているかどうかはわからない。いかにも軟派そうなヤツが一途な愛を歌ったり、人に平気で暴力を振るう人間が平和を歌ってたりする。かつてSMAPは「世界にひとつだけの花」を歌いながら、その歌詞には否定的だった、という話を聞いた事がある。
そう、誰も本当の事など知り得ない。誰でもいくらでも疑う事ができて、当人にその疑惑を払拭する術はない。
しかし当人にとっては、自分の考えている事は、間違いなく事実である。
ならばこそ、私は私の思う、私自身のノンフィクションを鳴らしてやろうと、そう思った。
厳密にそこまで考えた訳ではない。この本を読見終えた後、何の迷いもなく「『ノンフィクション』だな」と決定した。その思いに後付けで理由をつけているだけである。
この話は、そう、ノンフィクションである。
6月の途中、もうすぐ私は20歳になろうとしていた時。この2ヶ月後に、ソウイチロウ君宅にて、1曲目「スライス」を生み出し、「ノンフィクション」は正式に駆動する事になる。