ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

フレーズの山より

 

 

 

 

2021/4/13

 

フレーズの山より

 

赤みがかかった夕方の部屋で、私はギターを弾いている。アンプにも繋がない空のエレキギターが、暗い六畳に響いている。

弾くときに練習と思った事はほとんどないけれど、とりあえず触っている。垂れ流しの動画を目だけで見ながら、ジャカジャカと弾く、テンテンと、弾く。

最近は毎日弾くようにしている。そりゃ当たり前だろうと思われるかもしれないが、良い演奏をするためにはギターだけを弾いていれば良い訳ではない。良い曲を作ろうとするならば尚更である。対バンを見ながら「ギターの練習よりも、散歩とか本とか読んだ方がいいぜ」って言いたくなる人も、たまに居る。

 

無心でギターを弾いていると、ふっと、良いフレーズが弾ける時がある。一度動画を止めて、携帯に録音する。少しニヤリとした後、再生ボタンを押して、また時が動き出す。

もう何年もこれを繰り返していて、録音のデータは山積みになっている。良い良いと思いながら、何年も手をつけてないものもある。それでもそういうデータがあることで、私は少し安心する。秘密兵器みたいなものである。流石に切り札級に良いモノは多くはないが、それでもいくつかは隠し持っている。不思議のダンジョンならそこそこ深層まで安心できるくらいの装備はあるつもりだ。

今日もまた、2つほどのフレーズが生まれた。これを曲にして、歌詞をつけて歌う日はいつになるか、ひょっとしたら永遠に来ないかもしれないが、このフレーズが山積みになって、ゴチャゴチャに散らかる部屋の中で、私はまたゆっくりと眠るのである。