ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

喋るべきこと

 

 

 

 

2021/11/20

喋るべきこと

弦を張り替え、マイクのグリルを洗って、明日のライブに備える。天井に息を吐きながら、ステージの上で何を喋るか、考える。

昔は、しっかりMCを考えてからライブに臨んでいたが、最近はあまり深くは考えなくなった。それなりに流れを整えはするが、それだけである。そっちの方が良い、というか、どちらかと言うと手間の話もある。月4本も5本もライブをやっていると、全部考えるのは結構な労力になったりする。本番の演奏中も少し気が逸れたりする。

綿密に組まれたMCはやはり良い、しかし即興だと結構、リアリティは出る。何日か前に考えたことを喋るのと、当日や前日に考えたことを喋るのでは、当然、現実への肉薄が違ってくる。ライブってのは文字通りのライブであるので、あらゆる要素は「今」に近ければ近いほど良い。

ここ数年で気がついたことだけれど、ライブで何を喋るかというのは、実にシンプルな話だと思うようになった。要するに、話したい事を話せば良い。もしくは今思っている事を喋れば良い。本当にそれだけだと思う。「話したい事はない」と思っていても、よくよく考えれば必ず、何かしらはある。全く何もないなら、その人はステージに立つ必要はほとんどないと思う。

例えば「今が楽しい」と思うのならば、もちろんそれを喋れば良いが、その感情を5W1Hかなんかでさらに探っていけば、より自分の本心に近づける。自分の本心なんで、よく探らない限りわからんもんである。心の形跡を辿って辿って、その奥底の澱みを少しすくい上げて、喋る。それが良いMCだと思う。

もし、本当に何もないなら、「何もないです」と笑って演奏を始めれば良い。それが心の底からの言葉ならば、多分それが一番良いライブになる。

 

明日のライブで何を喋るか。脳内の澱みを、何となく何となく整える。ボケっとしながら冷蔵庫の中を漁って、材料をキッチンに並べるみたいな作業。色とりどりのそれらを見て、どう調理するかを、改めて考える。