ヒズミ回想

とあるバンドマンの、変哲も平坦もない日常。

麺に絡む逡巡

 

 

 

 

2021/12/7

麺に絡む逡巡

部屋が寒い。私のアジトは建物の最上階に位置しているので、冬は本当に冷え込む。エアコンはあるが、効きすぎた部屋では頭が呆けてしまうし、喉にも良くないのであまり好きではない。

寒いので、うどんを茹でる。鍋に水を張り、火で炙る。湯へと変貌したらうどんを入れる。玉子も2個落として、共に茹でる。器にめんつゆを入れお湯で割り、茹で上がった鍋の中身をぶち込んだら、チューブの生姜を適当に絞り、食べる。

白い熱源が、湯気を発しながら我が食道を下る。途端に、体内が燃え始める。寒い日々は辛いが、寒い日に暖かいものを食べると幸せな気持ちになれるので、嫌いではない。普段希薄だった自分の内の温度というものを、しっかりと安心して感じることができる。さぁ血流よ、存分に巡るが良い。

 

こうしてシンプルなうどんを啜っていると、小学時代、母の作ってくれたうどんを思い出す。風邪を引いて学校を休んだ日、母は昼食にうどんを作ってくれた。平日の昼なのに家にいる不思議と、やけに静かな部屋を感じながら、ボーッとする頭でうどんを啜っていた。

風邪を引いて休んだああいう日の、あの空気は何だったんだろうか。当時から不思議だった。なんとなく別世界に来たような不安と、ほんのりと灯る小さな興奮が、熱っぽい頭の中で広がっていた。学校を休める嬉しさと、しかし遊べる訳ではないもどかしさを抱えて、結局は布団に潜り眠るしかなかった。あの時の、あの感覚。あれは一体なんだったんだろうか。

今、体調を崩して仕事を休んだとしても、特に世界の空気は変わらない。不安も興奮もなく、あるのは職場に迷惑をかけた罪悪感と、少し目減りした給料の憂いだけ。あの時のあの感覚は多分もう、二度と巡り会えない感覚だろうと思う。取るに足らないものではあるけれど、二度と会えないとなると、少しだけ寂しくなってしまう。

うどんを啜り終わり、水を飲む。空になった器を流しに起き、洗い物は後回しにして、何となくの作業にかかる。今の私が感じられる、あの別世界のような空気は、他にもまだあるのだろうか。もしくは今のこの時代も、何十年後には不思議なものとして写るのだろうか。なんとも、わからん。